ひざ痛チャンネル編集部
2018-08-31

横田医師に聞く「手術せずに良くなりたい」は変形性膝関節症で叶うのか

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横田医師に聞く「手術せずに良くなりたい」は変形性膝関節症で叶うのか

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変形性膝関節症が進行してしまったけど、手術は受けたくない! すでに医師から手術を勧められているけど、手術以外の治療法をあきらめきれない! ……そんな方、多いのではないでしょうか?

そこで、ひざ痛チャンネル編集部が、変形性膝関節症の診療と治療を専門に行う「東京ひざ関節症クリニック新宿院」横田直正院長を直撃。変形性膝関節症の手術療法についてお話を伺いました。また、新たな治療法に関する情報もキャッチ。ひざ痛治療の最前線にいるドクターならではの考察と、これまでの経験から得た貴重なデータが、きっとあなたの治療の選択肢を広げてくれるでしょう。

絶対に手術は受けたくないという方、あきらめる前に一読ください。

変形性膝関節症の手術のはなし

変形性膝関節症を発症してしまっても、いきなり手術をするというわけではありません。まずは保存療法という、手術以外の方法で治療を始めます。その後に検討される可能性のある手術療法について、気になることを伺いました。

 

手術が行われるのはどのような場合でしょうか?

変形性膝関節症の治療方法

変形性膝関節症は、潜在的な患者を含めると3000万人が患っているとも言われていますが、痛みなどの症状が出始めたらまず行うのが、保存療法。鎮痛剤を用いて痛みを緩和したり、筋力トレーニングによって膝への負担を軽減することで、病気の進行を予防したりする治療法です。

どんな疾患についてもそうですが、医療の世界ではピラミッド型で治療法が考えられることが多いです。下段ほど人口が多く、上段ほど少なくなっていく、といった意味ですね。変形性膝関節症と診断されたら、まずは下段の保存療法から治療を始めます。ただ、この病気は進行性ですから、次第に保存療法の効果を感じられなくなってくる方もいます。そうした患者さんに対しては上段、つまり手術を考える、というわけです。保存療法から手術

 

手術を決める指標はあるのですか?

変形性膝関節症の進行度を表すグレードはK-L分類とも呼ばれ、手術をするかどうか、どの方法で手術するかを決定する一つの指標となります。

グレード1が予備軍で、グレード2、3はそれぞれ初期と進行期。関節裂隙(れつげき)という骨同士の隙間が徐々に消失していきます。グレード4、つまり末期は、関節裂隙が完全に消失した状態です。

変形性膝関節症のグレード

 

手術にはどういった種類があるのでしょうか?

横田直正医師

変形性膝関節症の手術は、大別して3つの種類があります。先ほどお話したグレードに痛みの強さや別の症状も勘案して決定することになるでしょう。病気が進行すればするほど、手術の規模や負担も大きくなってしまいます。

症状が軽度の場合は、関節鏡視下手術(かんせつきょうしかしゅじゅつ)という、内視鏡を用いた手術が行われることがあります。この手術の目的は、関節内で毛羽立った軟骨の除去や、関節軟骨の状態を確認すること。病気が進行すると、この手術を行っても効果は期待できません。

高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ)が適応となりやすいのが、変性膝関節症の進行期段階。O脚やX脚が悪化してしまった人に行われます。すねの脛骨の上部を切って、変形した脚の角度を矯正する手術です。

末期は大腿骨と脛骨がぶつかり合い、関節の変形が進んだ状態。こうなると、膝関節を人工のものに置き換える人工膝関節置換術しか手術方法はありません。

 

近年できた新しい手術方法はないのでしょうか?

私が研修医になった約20年前から、”手術方法”に大きな変化があったとは言えないと思います。

ただ、手術の”技法”について言えば、進歩はあるかもしれません。例えば、人工膝関節置換術。人工関節を入れるということは、膝を大きく切開する必要がありますよね。その身体への負担の大きさが懸念されるケースもしばしばありました。しかし現在、負担を可能な限り小さくするMIS法(Minimum Invasive Surgery:最小侵襲術)という技法などができています。こうした点は少しずつ変わってきているのかもしれません。

 

手術について、どのように考えられていましたか?

手術を行えないケースが気がかりでした。具体的には感染症の既往歴がある患者さんや、長期間、仕事を休むのが難しいという方です。変形性膝関節症の手術後には入院が必要ですからね。

保険診療の中で手術を行ってきて、期待できる効果や費用面でのメリットはよく知っています。良い結果を出すため、最大限の努力ももちろん惜しみませんでした。ただ同時に、保険診療の限界も感じていたのは事実です。そういったこともあり、手術以外の新しい治療法に興味を持ちました。

 

変形性膝関節症の手術以外の治療法とは

「保険診療でできることには限りがある」そこで、手術以外にも幅広い治療を提供できる自由診療で「再生医療」を追求していくことを決めた、横田医師。ここからは、変形性膝関節症の再生医療について、お話いただきました。

 

変形性膝関節症の再生医療とはどういったものですか?

自身の組織が持つ成分の働きで炎症を抑えたり、痛みを緩和させたりすることが目的です。今の時点で変形性膝関節症にも適応可能なのは、血液を利用したPRP療法や、脂肪から採取した脂肪幹細胞による治療。どちらも自身の組織を用いるため、副作用の心配も少ないのが特長です。

 

PRP療法とはどんな治療法ですか?

PRPとは、Platelet Rich Plasmaの略語で、多血小板血漿(たけっしょうばんけっしょう)という意味です。血小板には、傷んだ組織の修復を助ける成長因子が豊富に含まれていて、血漿が固まる際に成長因子が多く放出されます。多血小板血漿を血液から取り出して関節内に注入するのが、PRP療法。損傷した部分の治癒能力を高め、痛みを緩和する効果を期待できます。肉離れ、腱鞘炎、褥瘡など、幅広い疾患に用いることができます。

 

脂肪幹細胞治療とはどのような治療法ですか?

お腹や太ももで採取した脂肪から「SVF」という細胞群を抽出し、それを膝関節内に注射する治療法です。このSVFには、抗炎症作用や疼痛抑制作用が確認されています。

また、採取した細胞を専門の施設へ送り、一定期間をかけて幹細胞を増やしたものを関節内に注射する治療法が、培養幹細胞治療。たくさん脂肪を採取する必要がないため、期待を集めています。細身の人やアスリートといった体脂肪の少ない人でも受けられること、身体への負担を抑えられることなどもメリットです。

 

こうした再生医療、効果は出ているのでしょうか?

横田直正医師

野球の大谷翔平選手が良い例ですね。彼の場合は肘の靭帯損傷に対してPRP療法を用いた治療を行い、打者として早期復帰しました。ピッチングはさすがにできませんでしたが、手術を選択していたら打者としての復帰もなかったはずです。9月3日に投手としても復帰予定ということで、順調と言えるのではないでしょうか。

変形性膝関節症の患者さんに対しては、関節の変形が軽度であればあるほど、再生医療による治療効果が大きいという結果が出ました。未発表ということもあって、数値を含んだ詳しいデータをお伝えすることは現段階ではできません。ただ学会での発表も控えていますので、またの機会に詳しく報告できればと思っています。

 

つまり、末期では再生医療の効果はないということですか?

どの疾患・どの治療法についても言えることですが、病気が進行していればしているほど治療の効果が出にくかったり、持続時間が短くなってしまったりします。再生医療も例外ではありません。医師として思うのは、どんな疾患でも早期に発見・治療すべきだということです。

とは言え、変形性膝関節症の末期の患者さんに再生医療が全く効果なし、というわけではありません。実際に、間質血管細胞群(SVF)を用いてグレード3、4の患者さんを対象に行った治療でも、一定の効果は見られました。治療から1ヶ月後の痛みのスコアが小さくなっているのが特徴的です。

変形性膝関節症の再生医療SFVによる効果

膝の痛みの程度を数値化した尺度。左からそれぞれ治療直後、1ヶ月後、6ヶ月後の痛みのスコアを表している。

また、当院にお見えになるのもグレード3から4の方が多いです。左膝を人工関節にした患者さんが、右膝の痛みも増してきたため、そちらの手術も検討されていたんですね。その前にということで、当院にて培養幹細胞治療を行ったんです。その経過が良好で、人工関節置換術を受けなかったというケースがありました。

【出典】
Naomasa Yokota「Clinical results following intra-articular injection of adipose-derived stromal vascular fraction cells in patients with osteoarthritis of the knee」

 

いつ再生医療を受けるのがいいのでしょうか?

医師としては、変形性膝関節症に対して再生医療をおすすめするのは、初期から進行期の間。つまり、K−L分類でグレード2から3の間くらいです。ただそうは言っても、当院にお見えになる患者さんはグレード3や4の方が多いんですね。というのも、グレード2ではちょっとした膝の違和感だったり痛みが軽度だったりする場合も多く、病院に行かず我慢してしまう方もたくさんいらっしゃるからです。

 

再生医療は、手術に対してどんな位置づけなのでしょうか?

現時点では、変形性膝関節症がグレード4であっても「あきらめる前に一度、再生医療を受けてみる」といった位置づけかなと感じています。というのも「手術せずに良くなりたい」と思う患者さんがほとんどだからです。「関節の変形が軽度であるほど、再生医療の治療効果が高い」とお話ししました。しかし変形が重度だからといって、身体にメスを入れるという決断は決して容易ではありません。他に選択肢がなく「あきらめて」手術を決める方が多い印象を受けます。ただ、仕方なく決めた手術と、納得して決断した手術では、やはり術後のリハビリに対するモチベーションも違ってくることもあり、経過に影響することも考えられます。

はじめにお話しましたが、変形性膝関節症の治療法をピラミッド型で考えたとき「まずは下段の保存療法、効果が見られなければ上段の手術療法」これが従来の形でした。その2者の中間として「再生医療」が確立することが理想ではないかと思います。

変形性膝関節症の治療方法

変形性膝関節症の再生医療が手術を遅らせる

再生医療が治療の選択肢に加わると、手術を遅らせることができるかもしれません。現状を変えるためにも、まずは「変形性膝関節症の治療として再生医療がある」ということを、もっと多くの人に広めることが必要ではないかと思っています。そのためにも、治療の効果を示すエビデンス(証拠)が必須。多くの医療関係者からの賛同を得られるよう学会発表を行ったり、論文を書いたり、これまでの治療データを集計したりしているところです。

 

再生医療の有用性を広めることも、横田先生の目標なんですね。

はい。治療を重ねて症例数も多く集まっているので、そろそろ実りの時期ではないかと思います。できれば変形性膝関節症がグレード3、4と進行してしまう前に病院を受診し、治療していただきたいというのが正直なところです。ただ、末期まで進行して痛みに苦しむ患者さんに対しても力になれるよう、再生医療が発展していけばと思っています。

 

取材後記

手術や再生医療の難しい内容も易しく説明してくださった横田医師。その姿勢が、治療を受ける患者さんの安心にもつながっているのでしょう。横田医師はインタビューの中で「手術をせずに良くなりたい、というのは誰もが思うこと。だからこそ、変形性膝関節症の患者さんには早めに治療を始めてほしい」と強調しました。

治療をピラミッド型に当てはめたとき、保存療法で効果が見られなければ手術というのが従来の考え方でした。漫然と保存療法を続けるのではなく、ここに再生医療という選択肢が入ることで、手術を遅らせることができるかもしれません。効果が示され、再生医療が一つの治療として確立すれば、手術を受ける人はもっと少なくなるのではないでしょうか。計り知れない可能性を秘めた治療法の今後に、期待が膨らみます。

 

【情報提供者】横田直正(よこた なおまさ)
東京ひざ関節症クリニック新宿院 院長
リウマチ専門医でもあり、20年にわたって関節外科手術や論文を数多く手掛けてきた熟練ドクター。変形性膝関節症の保険診療に限界を感じ、再生医療を追求することを決めた。学会や他院ドクターの勉強会に参加するなど、再生医療の有用性を広めようと精力的に活動している。
<所属学会>日本整形外科学会/日本リウマチ学会/日本再生医療学会
<資格>日本整形外科学会認定専門医/日本リウマチ学会認定専門医/日本医師会認定産業医

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