ひざ痛チャンネル編集部
2018-10-05

【医師の見解】変形性膝関節症の痛みを緩和する注射の今とこれから

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【医師の見解】変形性膝関節症の痛みを緩和する注射の今とこれから

膝の痛みで病院に行くと、変形性膝関節症と診断された。そういった患者さんに施される保存療法(手術以外の治療法)の代表とも言えるのが、注射による治療です。ただ、とても一般的な治療法ということもあり、逆に知りたい情報が調べても見つからないという人は少なくないのでは? また、病院でも詳しい説明がなく不安に感じているという患者さんもいるようです。

そこで、注射による変形性膝関節症の治療について、当院医師の見解も踏まえて解説します。注射のそもそもの目的、注射と一言に言ってもどんな種類があるのか、副作用はないのか、効かなくなったらどうしたらいいのか、注射の最新治療はないのかなど、気になる方はぜひご覧ください。きっと、注射の治療に対しての漠然とした不安が解消されるはずです。

 

変形性膝関節症への注射の目的は根治にあらず

冒頭でもお話したように、変形性膝関節症を注射で治療する方法は、人工膝関節置換術や高位脛骨骨切り術のような手術に対し、膝関節にメスを入れない方法として、保存療法に分類されます。注射だけに限らず、変形性膝関節症の保存療法は対症療法。つまり、第一の治療目的は根治ではなく、痛みなどの変形性膝関節症に伴う症状を緩和することにあります。なぜなら、変形性膝関節症が進行性であること、そして一度損傷した関節軟骨を再生させ健康な状態に戻すことが、今の医学ではできないからです。

変形性膝関節症の進行

変形性膝関節症の進行具合と膝関節のイメージ

 

痛みの緩和を目的とした治療的適応

根治できないからと言って、注射が無意味なわけではありません。変形性膝関節症に悩む患者さんの第一の症状は、痛み。膝関節の炎症によって痛む、可動域制限で膝が動かしづらいので痛むなどありますが、こういった膝の痛みによって生活に支障が生じています。それを緩和させる効果が、注射には期待できるのです。ひざ痛チャンネルの行ったアンケートによると、注射による治療を受けた変形性膝関節症患者のうち「やや効果があった」という回答は21.9%、「とても効果があった」は12.3%というデータが得られています。

変形性膝関節症の保存療法の効果に関するアンケート結果

※変形性膝関節症の治療を病院で受けた経験を持つ73名のうち、注射による治療を受けた男女49名への質問

 

膝痛の原因や問題箇所を確かめる診断的適応

また、変形性膝関節症という確定診断がなされていない場合は、治療ではなく、検査の意味合いから注射を行うことも。痛みが膝に由来するものであること、膝の中でも関節内か関節外かを鑑別することが目的です。

 

変形性膝関節症で行う3種類の注射の違い

変形性膝関節症の治療で行う注射は、投与経路で言うと関節腔内注射になります。いわゆる予防接種などの注射は皮下組織に薬剤を注入するということで皮下注射ですが、変形性膝関節症の場合はトラブルの生じている関節腔内に薬剤を届ける必要があるのです。

変形性膝関節症で行う関節腔内注射としてヒアルロン酸注射が代表的ですが、他にもステロイドやキシロカインなどの局所麻酔薬を注射する方法があります。

 

ヒアルロン酸注射:膝関節の潤滑と痛みの緩和に期待

膝のヒアルロン酸注射のアルツ

ヒアルロン酸ナトリウムという薬剤をひざ関節に注射する治療法です。先にも言ったように、変形性膝関節症に行われる注射でもっとも多いのが、このヒアルロン酸注射と言えるでしょう。

アルツやスベニール、サイビスクなど、ヒアルロン酸の中でも分子量や組成の異なる商品があり、ジェネリック医薬品(新薬の特許が切れたあとに販売されている、新薬と同じ成分・効果が期待できる新薬より安価な薬)も数多く存在します。

 

目的・効果

膝の関節腔内は滑液という関節液で満たされているのですが、その重要な成分がヒアルロン酸です。膝関節の動きを滑らかにする役割があるのですが、加齢によって関節内のヒアルロン酸は減少してしまいます。すると関節の動きは制限され動きにくくなりますし、軟骨への負担も大きくなりすり減りが進行してしまい、痛みが生じるように。この現象の原因と言えるヒアルロン酸の不足を、似た成分で精製されたヒアルロン酸ナトリウムの注入で補おうという治療になります。

製薬会社のホームページ等では抗炎症作用もうたわれていますが、その働きは軽い炎症に対するもの。あくまで期待する一番の効果は、膝関節の潤滑を良くすることで痛みが緩和されることです。さびた関節に油を注すというイメージが近いでしょう。

膝のヒアルロン酸注射

日本整形外科学会変形性膝関節症診療ガ イドラインにおいては、副腎皮質ステロ イド関節内注射と比較して作用の発現は遅いけれど、症状緩和作用は持続するという特徴が中等度の根拠に基づいているとして、推奨度B(推奨強度:87%)と位置づけられ、標準治療となっています。

 

治療頻度

製品の種類によっても異なりますが、週1回の治療を3〜5週間継続し、その後は効果の持続に応じて、2〜4週間に1回のペースで行われるのが一般的。保険診療の場合は頻回であっても週1回までというのが原則です。

ただ、これをいつまで続けるのか、ずっと続けても大丈夫なのかという部分においては医師によっても見解が分かれるところ。感染症という副作用の可能性がゼロではないからです(この件については、後ほど詳しくご説明します)。当院の医師におていも、他に手だてがなく希望があれば行うという一方、リスクの高まりや治療効果の見極めができないという理由から、漫然とヒアルロン酸注射を続けるのには否定的な考えを持っている医師もいます。そのため、医師からの説明に納得した上で受けることをおすすめします。

 

ステロイド注射:抗炎症作用による膝関節の痛み緩和に期待

ステロイドという薬剤の名称は耳にしたことがあるかと思いますが、ステロイドとは体内で生成される副腎皮質ホルモンのひとつ。ヒアルロン酸同様、それに似た成分と働きを持つようにつくられた薬剤を注射する治療法です。

 

目的・効果

ステロイド注射で期待されるのは、変形性膝関節症によって生じている炎症を抑える抗炎症作用です。ヒアルロン酸注射で制御できる炎症はごく軽度のもの。そのため、膝に水がたまるほどの強い炎症の場合は、水(関節液)を注射器で抜いた後に炎症の治療として行うというのが、一般的なステロイド注射による治療です。

 

治療頻度

ケースバイケースですし、医師によっても見解が異なるのですが、肌感としては1〜2回程度が多いのではないでしょうか。一方で欧米では、3か月以上のスパンを開けて、年2回までの注射とした場合、軟骨や骨への悪影響なく高い効果が得られるという研究報告もあり普及しているようです。ただ、日本では後述の副作用のリスクや、ヒアルロン酸注射が標準治療となっていることからも、やはり頻回な使用はあまり見受けられません。

当院の医師の中でも、定期的に行う治療ではないというのが共通の見解です。治療としても積極的な選択ではなく、手術ができない方やどうしても早急に痛みを取りたいなどのご希望があった場合、副作用のリスクも説明した上で仕方なく行うという考えを持っている医師も。また、変形性膝関節症の注射の目的の項でもお話ししましたが、除痛目的ではなく、膝由来の痛みであることを証明する検査目的でなら行うと話す医師もいます。

※参考:「Safety and efficacy of long-term intraarticular steroid injections in osteoarthritis of the knee: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial.」Raynauld JP他 Arthritis Rheum. 2003 Nov;48(11):3300.

 

リドカイン注射:麻酔効果による痛みの緩和に期待

局所麻酔薬:キシロカイン

リドカインとは局所麻酔薬の一種。変形性膝関節症への処置としては、ヒアルロン酸注射やステロイド注射ほど知られてはいないかもしれませんが、実際に病院で行われている治療法です。製品としてはキシロカインが代表的で、病院によっては「キシロカインの注射」と説明するところも少なくないでしょう。

 

目的・効果

ブロック注射(局所麻酔で神経を麻痺させて痛みを緩和させる治療法)の目的で、変形性膝関節症の痛みに対して行われる治療法です。変形性膝関節症では関節を覆う関節包の内側の滑膜が炎症によって痛みを発していることがほとんどです。そのため関節内へ注射することで、その痛みを抑制する効果が期待できます。

単独で使用することもありますが、ヒアルロン酸に混ぜて注射することが多いでしょう。

 

治療頻度

麻酔薬による一次的な除痛であるため、継続的に行う注射ではありません。

 

注射と言えど、やはりリスクはゼロではない

ヒアルロン酸注射の説明でよく見るのが「もともと体内にある成分なので副作用の心配がありません」というもの。しかし、医療行為なので絶対はありません。変形性膝関節症のどの注射かでも異なりますが、副作用のリスクはゼロではないのです。怖がらせるというよりは、むしろ安心のため、デメリットについても知った上で治療を受けることをおすすめします。

 

注射の痛み

様々なゲージの注射針

引用:テルモ

変形性膝関節症の注射で使用する注射針は、だいたい20~25Gのもの。インフルエンザなどの予防接種で使用する注射針が26~29Gくらいですから、それよりもほんの少し太いとイメージになります。痛みの感じ方には個人差がありますが、注射針を刺す痛み自体は、通常の皮下注射の際の痛みとそれほどは変わらないと言えるでしょう。

皮下注射や筋肉注射では密集した組織内に薬剤が入ることが治療後の痛みの要因のひとつに考えられますが、膝関節内ではそれがなく、特に問題がなければ注射後に大きな痛みは生じにくい傾向にあります。ただし、稀なケースであるとは思いますが、医師のミスで関節外に薬剤を注入してしまった場合には痛みが生じることになるでしょう。

また、個人の薬剤への反応によっては注射直後もしくは当日から、痛みや腫れ、熱感などの症状が現れることがあります。通常2~3日で解消されるものではありますが、72時間以内に症状が治まらないようであれば、再度病院を受診し、医師に相談しましょう。

 

感染症

医師によっても多少異なるかもしれませんが、変形性膝関節症への注射は、医師は滅菌した手袋を着用し、皮膚表面を消毒してから注射針を挿入するという工程です。そのため可能性としては低いのですが、注射という行為では、細菌感染による化膿性膝関節炎の副作用のリスクが考えられます。関節内は血流がないため、感染に弱いのです。代表的なのが黄色ブドウ球菌の感染。感染症の場合、注射の痛みのリスクでお話しした薬剤への反応とは異なり、翌日以降に痛みや腫れなどの症状が生じる傾向があります。重篤になると手術による治療が必要で、後遺症が残ることも。

これを防ぐため、病院側では先にお話したような工程で無菌操作を徹底します。患者さんとしては、不潔にしなければ特に気を付けることはありません。シャワーや入浴も問題ありませんが、患部を強くこすったりすることは避けた方が良いでしょう。

 

ステロイド注射の副作用

ステロイドというと、1980年代に問題となった、ステロイド薬害のイメージを持たれている人もいるかもしれません。当時は副作用の十分な知識がないまま臨床で頻回に使用されたため、重篤な副作用が多発してしまいました。しかし、現在はその認識もしっかりしており、問題視するほど頻回に使用されることはないでしょう。ただし、だからと言って副作用のリスクがないわけではありません。

例えば、ステロイドの影響で軟骨破壊や骨粗鬆症を発症するステロイド性膝関節症。先にあげた感染症にしても、ステロイドには免疫を抑制する作用があるため、感染に弱い状態となり、リスクがより高まります。また、注射後に気分が沈みがちになるステロイドサイコーシスという精神障害を生じたり、血糖値があがり糖尿病を発症したり悪化したりすることもあります。

 

変形性膝関節症に注射が効かない理由を考える

すでに注射による治療を受けているという患者さんから、効果が感じられない、もしくは徐々に効かなくなってきたという声を効くことがあります。実は変形性膝関節症ではなく関節外の問題だったなど、診断に誤りがないという前提であれば、その理由には患者さんの生活や通院状況、変形性膝関節症の進行度などが考えられます。

 

生活習慣が治療前から改善されていない

膝痛の原因となる体重

最初にお話したように、変形性膝関節症の注射は対症療法です。そのため、最初は注射で痛みが緩和したとしても、変形性膝関節症の原因となった要因が改善されなければ、膝関節への負担は大きく、進行を遅らせることは難しいと言えるでしょう。

変形性膝関節症の一次的な要因としては、加齢の他、体重や筋力などが大きく関係しています。つまり、肥満体型の人は減量に、筋力が低かった人は運動に取り組むなど、注射で症状を緩和させることと平行して、治療前の生活習慣を改善する必要があるのです。もしそれがなされていなければ、注射の効果ではフォローしきれないほど、膝関節の状態が悪化している可能性があります。

 

治療間隔が空きすぎている

変形性膝関節症の治療スパン

ヒアルロン酸注射の場合、週1回を連続して3〜5週など、薬剤で定められた用法・用量にのっとって行われます。長年漫然と続けることは推奨はしませんが、例えば最初から治療間隔が1ヵ月もあいてしまったりすると、本来の治療効果は見込めないでしょう。

 

注射が適応となる進行度を超えている

膝の診察のイメージ

生活習慣の改善にも取り組んでいて、治療間隔も指示通りというのであれば、注射が効かない理由として考えられるのは、適応ではないということ。ヒアルロン酸注射などは初期では高い効果を発揮し、冒頭でお伝えしたアンケート結果のように、高い満足度を得られることも少なくありません。ただ、軟骨の損傷が進行期や末期まで進んでしまうと、その限りではありません。

一般的に、保存療法を6ヵ月続けても改善が見られず、生活に支障が生じているようであれば、手術検討の対象となります。つまり、ヒアルロン酸などの注射では手に負えない状態まで膝関節が悪化していると考えられるのです。

 

注射にも登場した変形性膝関節症の最新治療

変形性膝関節症の再生医療

注射による治療が効かなくなっても、手術を受けられない、または受けたくない人には、効かなくなった注射を打ち続けるしか治療法がありませんでした。なぜなら、変形性膝関節症など加齢によって起こる疾患の保険診療内の臨床分野は、20年以上もほぼ変わっていないからです。しかし、そういった状況にも数年前から変化が。2014年、日本は世界に先駆けて再生医療の法律を施行しました。これにより、保険診療外ではありますが、安全性が確保された再生医療が選択肢に加わりました。すでに提供されている治療法で言うと、自己血液を加工したPRPを注射するが代表的です。順天堂大学病院の斎田医師がテレビで紹介して話題になったので、ご存知の方もいるのではないでしょうか。そして、PRP注射だけでなく、血液を活用した他の治療や脂肪幹細胞の作用に着目した治療法など、注射で行う再生医療は他にも様々なものが、すでに提供され始めています。

副作用のリスクを侵してまで効かない治療を続けるか、再生医療の注射で治療するか。そういった選択はとても遠い未来のことではなく、もっと身近になりつつあるのです。

 

変形性膝関節症の再生医療に興味をお持ちの方は「【変形性膝関節症3つの最新治療】患者が語る再生医療の効果とは?」も併せてご覧ください。

 

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