ひざ痛チャンネル編集部
2018-06-20

医師が語る、膝のけがへの応急処置と治療法の話〜外傷編〜

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医師が語る、膝のけがへの応急処置と治療法の話〜外傷編〜

膝に起きるけがには、どんな種類があるのでしょうか? スポーツ中に膝を捻った、日常生活で膝を強打したなど、膝を痛めるシチュエーションは様々ありますよね。それはあなたやご家族のことかもしれませんし、あるいはお気に入りのスポーツ選手が膝をけがしたと聞いた、という場合もあるでしょう。そこで今回は、治療を急ぐべき膝の「外傷」と呼ばれるけがにフォーカスしました。

けがの種類や治療法を解説するとともに、記事の最後では、病院に行く前にやっておくべき応急処置もご紹介しています。病院に行くかどうかをまだ迷っている人も、可能性として考えられるけがの種類を知っておいて損はありませんよ。

 

膝に起こるけが「外傷」と「障害」の違い

膝のけがには「外傷」と「障害」の2種類があります。似ているようで実は異なる、これらの言葉。その違いは何なのでしょうか?

 

外傷

ぶつかった、捻ったなど、身体の外から力が加わることで生じたけがのことです。スポーツ中に生じたものは「スポーツ外傷」と呼ばれます。

 

障害

継続的にかかる負荷が蓄積されることで生じたけがのことです。スポーツでの動作が影響して生じたものは「スポーツ障害」と言われます。

 

膝のけが「外傷」にはどんな種類がある?

膝に起こりやすい外傷を具体的に見ていきましょう。

 

①靭帯損傷

膝靭帯

靭帯は、骨と骨をつないでいる硬いゴムのような組織で、膝の靭帯は太ももの大腿骨(だいたいこつ)と、すねの脛骨(けいこつ)を繋いでいます。

関節内にあるのが前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)と後十字靭帯(こうじゅうじじんたい)、関節外にあるのが内側側副靭帯と外側側副靭帯。膝の靭帯に起きる外傷としては、これら4つの損傷が多いでしょう。加わる力が大きければ複数の靭帯を同時に損傷したり、半月板の損傷を併発したりするケースもあります。

【関節内】

  • 前十字靭帯(ACL)……大腿骨に対して、脛骨が前にずれないようにする役割を果たしています。脛骨の上端が前方の内側方向に入る強い力が加わることで損傷。負傷者が単独で受傷することが多く、接触により受傷することは稀です。
  • 後十字靭帯(PCL)……大腿骨に対して、脛骨が後ろにずれないようにする役割を果たしています。膝の前方から、膝の後方へ向けて強い力が加わることで損傷。衝突や、転倒時の床との接触により受傷することが多いです。

 

【関節外】

  • 内側側副靭帯(MCL)……大腿骨に対して、脛骨が身体の内側にずれないよう制御する役割を果たしています。膝にある靭帯の中では最も損傷頻度が高く、膝の外側から内側へ強い力が加わることが受傷の原因です。
  • 外側側副靭帯(LCL)……大腿骨に対して、脛骨が身体の外側にずれないよう制御する役割を果たしています。膝の内側から外側へ向けて強い力が加わることで損傷します。この靭帯を単独で損傷することはほとんどありません。

 

靭帯損傷の主な症状

  • 膝の痛み……受傷後すぐは激しい痛みに襲われます。
  • 膝の腫れ……靭帯を損傷すると、膝の内部が出血して血がたまったり、炎症を起こした関節内で異常に分泌された滑液がたまったりして腫れます。
  • 膝の可動域制限……膝の痛みや腫れによって、曲げ伸ばしがしづらくなる可動域制限が起こることがあります。
  • 膝の不安定感……受傷からしばらく経ち、炎症が治まると痛みや腫れは引きますが、徐々に不安定感が目立つようになります。受傷した靭帯の部位によって、身体の前後左右に膝がぐらつくような感覚になることも。

靭帯はレントゲンに写らないため、受傷時の状況や症状から損傷が疑われるときは、MRIによる診断が必須。靭帯損傷が認められる場合は、重症度を示す1〜3のグレード(段階)を参考にしつつ、治療方法を決定します。

  • グレード1……靭帯の一部分を損傷した状態。その部分を押すと痛みがあります(圧痛)。1週間ほどの安静で快方に向かうことが多いでしょう。
  • グレード2……靭帯の一部分が断裂した状態。何もしなくても痛みや腫れが生じ、膝を30度ほど曲げると不安定感を覚えることがあります。3〜6週間程度の安静が必要です。
  • グレード3……靭帯組織が完全に断裂した状態。膝が不安定になり、前後左右にぐらつきます。他の靭帯や軟骨の損傷を併発している可能性があり、手術が必要になることが多いでしょう。

 

靭帯損傷の原因

接触型と非接触型があります。接触型はスポーツ中に他のプレイヤーと衝突したり、交通事故でぶつかったりした衝撃により受傷するもの。それに対し、非接触型はスポーツ中の着地や転倒、急な方向転換などで膝を捻った際に受傷するものです。

 

靭帯損傷の治療法

損傷した組織の治癒を助けるのが、血液。関節外には血液が多いため、内側側副靭帯や外側側副靭帯は、受傷後すぐに適切な処置を行えば修復しやすいとされています。しかし、関節内には血液が少なく、前十字靭帯や後十字靭帯を損傷すると自然治癒は見込めません。次のような手術が必要になることがあります。

・靭帯修復術
損傷した靭帯を縫合して修復する手術です。保存的治療で修復のしやすい内側側副靭帯や外側側副靭帯であっても、めくれかえるように損傷している場合は手術が適応されます。

 

・靭帯再建術
自分の組織や人工靭帯を採取し、断裂した靭帯を再建する手術。自然治癒の見込めない前十字靭帯や後十字靭帯の損傷に対して適応されます。世界的に推奨されているのは、膝屈筋腱(ハムストリング腱)や膝蓋腱(膝のお皿と脛骨をつなぐ腱)などの自己組織を用いて再建する方法。人工靭帯は、近年ではほとんど用いられなくなっています。

靭帯損傷が疑われる場合でも、レントゲン検査によって骨に異常が見つからなければ、ひとまず膝の捻挫という扱いになります。ただ、どのように治療するか決定するために、より明確な診断結果を得られるMRI検査を受けることになるでしょう。より詳しくは「膝の捻挫をあなどるな!しっかり治してクセづけないための6つの知識」にまとめてありますので、そちらもご覧ください。

 

②半月板損傷

膝関節の半月板

半月板(はんげつばん)はアルファベットの「C」のような形をした軟骨で、左右それぞれの膝関節に2つずつ、向き合うように存在します。身体の内側にあるのが内側半月板(ないそくはんげつばん)、外側にあるのが外側半月板(がいそくはんげつばん)。関節の滑らかな動きを助け、膝にかかる強い衝撃を和らげて骨を守る役割を担っています。

損傷頻度は、内側半月板が圧倒的に高く、外側半月板損傷の5倍です。また、半月板損傷には、多くの場合、靭帯の損傷も併発します。内側半月板、前十字靭帯、内側側副靭帯の3つを同時に損傷すると、アンハッピー・トライアド(不幸の三兆候)と呼ばれ、治療には1年以上、長ければ2年もの期間を要することに。今年2月、全日本男子バレーボール代表の清水邦広選手がこのけがを負い、全治12ヶ月と診断を受けるなど、しばしばアスリートを苦しめる要因となる外傷です。

 

半月板損傷の主な症状

  • 膝の痛み……歩行時や階段昇降時、膝に痛みが出ます。突然、激痛が走ることもあります。
  • 膝の引っかかり感……損傷した半月板の欠片が関節内にあることで、引っかかったようなキャッチング現象が起こります。
  • 膝の曲げ伸ばしがしづらい……痛みや引っかかり感から、しゃがむ、立ち上がるなどの曲げ伸ばしがしづらくなります。
  • 膝に水がたまる(腫れる)……膝の関節内で炎症が起きることで、関節液が異常に分泌され、膝に水がたまってブヨブヨと腫れることがあります。
  • 膝が動かなくなる……損傷した半月板の欠片が膝関節に引っかかることで、膝が全く動かなくなるロッキング現象が起こります。

 

半月板損傷の原因

多くは、激しい動きのあるスポーツで起こります。ジャンプの着地や、膝に体重がかかった状態での急な方向転換などで半月板に過度な負担がかかったり、膝を捻ったりした際の受傷が多いでしょう。ただし、スポーツをしていない人も油断は禁物! 半月板は加齢によって変性しやすくなるため、40代以上の人は少しの衝撃でも半月板を損傷してしまうことがあります。

 

半月板損傷の治療法

半月板を損傷しても必ず手術が必要というわけではなく、損傷した部位や度合いを考慮して治療方法を決定します。例えば、半月板の外側の損傷であればわずかに血流がある(画像の赤色部分)ため、手術以外の保存的治療が可能な場合も。ただ、半月板の内側にはほとんど血流がありません(青色部分)。そのため、こちらを損傷した場合、自然治癒はほぼ期待できず、手術が必要となります。手術の手法には、切除術と縫合術の2つがあり、どちらも関節鏡(内視鏡)を用いて行います。

半月板の血流

 

・半月板切除術
損傷した範囲が狭い場合や、半月板が変性を起こしている場合、損傷したのが血流の乏しい内側である場合に適応されます。

損傷した部位だけを切除するため、健常部分は温存可能。ただ、切除した部分は再生しないため、クッションの役割を果たしていた部分がなくなった状態に。つまり、半月板を切除すると、関節軟骨にかかる負担が大きくなってしまうのです。膝への負担をカバーしてくれる、膝周辺の筋肉を強化する必要があるでしょう。

 

・半月板縫合術
以前は切除術が主流でしたが、半月板を温存できる縫合術が行われることが多くなってきました。縫合術の適応は、損傷した箇所が血行の良い部位(主に半月板の外側)であることと、半月板に変性がないことが条件。血流が保たれていれば再生が期待できるためです。若い方や膝の活動性が高い方は、半月板機能の温存がより重要となるため、半月板縫合術を選択すべきとされています。

半月板損傷の手術については、「半月板損傷の2つの手術はどう違う?回復期間から費用までの全知識」に詳しくまとめてあります。

【参考文献】
ザムスト「半月板損傷」

 

③打撲

膝が腫れる違和感

打撲は、誰しも一度は経験があるのではないでしょうか。内出血して肌が真っ青に変色しているのも、見覚えがありますよね。打撲は、打ったところが局所的に痛んだり腫れたりするという特徴があります。

 

打撲の主な症状

  • 膝の痛み……打ったところが痛みます。
  • 膝の腫れ……打ったところが内出血し、腫れます。
  • 膝が熱を持つ……腫れに加え、打ったところが熱を持つことがあります。

 

打撲の原因

スポーツ、日常生活での接触や転倒、家具に打ち付けることなどにより受傷します。

 

打撲の治療法

打撲の場合、症状は数日で治まることが多いため、湿布を貼る、患部への刺激を避けるなどの方法を取りましょう。病院へ行く必要はありませんが、膝全体が痛む、大きく腫れるなどの症状があれば、次にご紹介する膝蓋骨骨折が疑われるため、経過観察には注意してください。また、膝を強打した場合、まれに後十字靭帯を損傷するケースもあります。

 

④膝蓋骨骨折

膝レントゲン

膝蓋骨(しつがいこつ)とは、膝のお皿のことです。膝蓋骨骨折はどの世代にも起こり得る外傷ですが、高齢者は軽く膝を打っただけでも受傷してしまうことがあります。度合いにもよりますが、骨折した膝蓋骨がほぼ元の状態に戻るまでは3〜6ヶ月ほどです。

 

膝蓋骨骨折の主な症状

  • 膝蓋骨周辺の痛み……膝の広い範囲に痛みが出ます。
  • 膝蓋骨周辺の腫れ……膝が大きく腫れます。
  • 膝の可動域の減少……膝のスムーズな動きをサポートする働きがある膝蓋骨が骨折してしまうことで、可動域(膝の動く範囲)が減少することがあります。

 

膝蓋骨骨折の原因

スポーツでの接触により転倒し膝を打った、交通事故で膝を強打した、など原因は様々。

 

膝蓋骨骨折の治療法

治療方法には保存療法と手術療法があり、膝蓋骨骨折の3つのタイプに応じて決定されます。横骨折や粉砕骨折は多くの場合、手術が必要となるケースが多いでしょう。膝の上下(大腿四頭筋と膝蓋靭帯)から引っ張られることで、折れた膝蓋骨が引き離される恐れがあり、その状態で保存療法を行っても骨の修復が期待できないためです。

  • 縦骨折……膝蓋骨に、地面と垂直方向の亀裂が入った状態。
  • 横骨折……膝蓋骨に、地面と水平方向に亀裂が入った状態。
  • 粉砕骨折……膝蓋骨に、細かく砕かれたような亀裂が入った状態。

膝蓋骨骨折の分類

 

・保存療法
手術の必要がない場合、ギプスを装着して3〜5週間固定する保存療法を行います。本格的なリハビリはギプスを外した段階でスタート。徐々に可動域を広げるためのトレーニングを進めていきます。

 

・手術療法
真っすぐな硬い針金で折れた骨を固定します。その針金に細い針金を巻きつけ、さらに固定して骨の癒合(くっつくこと)を待つというもの。折れた骨の欠片がしっかり固定されるため、膝の上下から引っ張られて引き離されるのを防ぐことができます。

手術は1時間半〜2時間程度。早期に曲げ伸ばしが可能になるため、かなり早い段階でリハビリを開始できます。詳しいリハビリ方法については「【膝のお皿が割れる!?】膝蓋骨骨折の手術やリハビリを知る必読書」で、より詳しくご紹介しています。

 

⑤膝蓋骨脱臼

骨同士の関節面が正しい位置関係を失い、本来の位置から外れることを脱臼(だっきゅう)と言います。膝で言うと、太ももの大腿骨のくぼみにはまっているはずの膝蓋骨(膝のお皿)が、くぼみから逸脱した状態。逸脱していないがずれている場合は、膝蓋骨亜脱臼と呼ばれます。

膝蓋骨脱臼が一度起きると、20~50%の人に再発し、繰り返す恐れがあります(反復性膝蓋骨脱臼)。また、膝蓋骨は身体の外側へ外れることが多いです。

脱臼した膝蓋骨の状態

 

膝蓋骨脱臼の主な症状

  • 膝蓋骨周辺の痛み……強い痛みで歩けなくなることもあります。
  • 膝蓋骨周辺の腫れ……膝蓋骨周辺が腫れます。
  • 膝の可動域制限……膝の曲げ伸ばしが制限される可動域制限が起こることがあります。
  • 膝蓋骨の不安定感……脱臼を繰り返す(反復性膝蓋骨脱臼)と、痛みや腫れは減り、不安定感が強くなります。

 

膝蓋骨脱臼の原因

スポーツや事故により膝の前面を強く打ち付けたときや、ジャンプの着地で太ももの大腿四頭筋に大きな負担がかかって強く収縮し、膝蓋骨が引っ張られたときに起こります。女性ホルモンの影響で関節が弛みやすい、10代の女性に発症することが多いです。

 

膝蓋骨脱臼の治療法

早急に医療機関を受診し、整復(元の状態に戻すこと)を行わなければなりません。また、ギプスで固定し、3週間程度は運動を控えて安静にすることが必要です。膝蓋骨がずれないように設計された特殊な装具を使用したり、テーピングを使ったりして、徹底的に再発を防ぎます。

膝蓋骨の骨折を併発している場合や反復性膝蓋骨脱臼と認められる場合は、手術を行うことになるでしょう。特に反復性膝蓋骨脱臼には、変形性膝関節症や膝蓋大腿関節症といった合併症のリスクが伴います。そのいずれも、最悪の場合は人工関節を入れることになる疾患のため、注意が必要です。

膝蓋骨脱臼については、「膝の脱臼を繰り返したくない!癖にしないための治し方とリハビリ法」に詳しくまとめてあります。

 

膝をけがしたかも? と思ったら……

膝の外傷に行う応急処置

まずは次のように対処しましょう。そして、検査はレントゲン? それともMRI? そんな予備知識も、合わせて解説します。

 

受傷後は、まずRICEで対処

ここまでご紹介したような膝のけがが疑われる場合、病院に行く前に応急処置をしましょう。それぞれの英語の頭文字を取った、RICE(ライス)という応急処置が一般的です。けがによる炎症で痛みが出るピークは、受傷後の2〜3日程度と言われているため、その期間中は、症状に応じて下記のサイクルを繰り返しましょう。

 

Rest(レスト)……安静

膝を動かさず安静にします。添え木などを使って、膝が曲がらないように固定しましょう。

Ice(アイス)……冷却

血行を抑えて腫れを緩和させるため、氷のうなどを使って患部を冷やします。氷のうは布で巻き、皮膚に直接当てないようにしましょう。目安としては15〜20分程度。皮膚の感覚がなくなってきたら一旦外し、痛み始めたら再度冷やします。

Compression(コンプレッション)……圧迫

出血や腫れを抑えるため、布やタオルを巻くなどして患部を圧迫します。強く圧迫しすぎると血行障害になる恐れもあるので、慎重に行いましょう。

Elevation(エレベーション)……挙上

腫れを抑えるため、患部を心臓より高い位置に上げ、血液の流入を少なくします。椅子や台座などを使って行いましょう。

 

膝にたまった水に血が混じっていたら、靭帯か骨の異常

膝に水がたまるのは関節内で炎症が起きている証拠。膝のけがとしては比較的重度であると言えます。また、膝にたまった水を抜いたら血が混じっているときは、骨、靭帯、半月板のいずれかに異常がある可能性が高く、複数の組織を同時に損傷している可能性もあります。そのため、レントゲンには写らない靭帯や半月板を確認できるMRIでの診断が必要です。

 

膝のけが、放置すると関節症に繋がる危険も!

ご紹介したように、膝の外傷は様々あれど、どれも適切な処置や治療が早急に必要となります。打撲と思っていたら他の疾患だったということも、実際にあるからです。

また、前十字靭帯や半月板の損傷は、膝の不安定感を生じさせます。放置すると、軟骨が骨とぶつかってすり減る変形性膝関節症という疾患を引き起こす可能性もあるため、要注意。ご紹介したような外傷が疑われる場合、他の疾患を発症するリスクを回避するためにも、早急に整形外科を受診してください。

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