Warning: Undefined variable $author_name in /home/cytokine2/knee-pain.jp/public_html/wp-content/themes/xeory_base_knee-pain/functions.php on line 1221
変形性膝関節症の痛みをあきらめないでほしい、これが医師の想いです。そのためにも、まずは痛みの原因と、あなたの痛みがどういったものなのかを知る必要があるでしょう。この記事では、原因・治療・対処法をご紹介した上で、なかなか改善しない痛みを改善するために取るべき行動もご提案。今すぐチェックして、痛みのない生活を取り戻しましょう。
変形性膝関節症の痛みとは
この軟骨が、加齢や肥満といった要因によってすり減ってしまうことで、膝関節への負荷が増加。最終的には軟骨だけでなく骨同士までぶつかり合うようになり、関節が変形してしまう進行性の疾患が、変形性膝関節症です。
はじめは膝が一時的に固まったように感じる”こわばり”や、動き始めにだけ膝が痛くなる”スターティングペイン”といった違和感程度であることも多いでしょう。しかし進行するにつれ、水がたまって腫れたり、膝の曲げ伸ばしが思うようにできなくなる可動域制限が起こったりします。
この疾患で厄介なのが、いきなり事故や怪我のように強い痛みが生じるわけではなく、初期段階では患者さまが危惧するような自覚症状が出にくいということ。痛みがあっても軽度であることが多いため、見過ごされてしまうことも多いのです。実際に、ひざ痛チャンネルが行ったアンケートでは、膝の痛みを感じても病院に行かない理由として、84.5%もの人が「病院に行くほどの症状と思わないから」と回答しました。
高齢の方に多いのですが、病院を受診した頃には変形性膝関節症が末期まで進行していることも、少なくはありません。特に「階段の上り下りがつらい」「仕事や家事がままならない」など、膝の痛みで生活に支障が出るようになってから病院を受診すると、進行期や末期にさしかかっている可能性は十分に考えられます。
末期になると関節裂隙(れつげき)という膝関節の隙間は完全に消失し、大腿骨と脛骨が激しくぶつかり合います。趣味を楽しめなくなったり、安静時にも強い痛みが生じたりするなど、日常生活に支障が出ることも……。そんな要注意の疾患が、変形性膝関節症なのです。
膝の痛みのメカニズム
変形性膝関節症で痛みを感じるのは、すり減った軟骨の影響を受け、膝関節を覆っている滑膜が炎症を起こすため。初期では痛みが出にくいとお伝えしましたが、炎症が強ければ初期でも強い痛みが生じる可能性はあるのです。痛みが長期化すると、痛みの感覚が残存して慢性的な痛みのようになったり、痛覚が過敏になるため微細なことでも痛みを感じやすくなったりするそう。さらに、痛みをかばうような生活を継続することで、筋肉や靭帯といった別の組織に負担が集中し痛みが生じることもあります。滑膜の炎症による変形性膝関節症の直接的な痛みに別の要因も相まって、痛みの悪循環となってしまうのです。
少し話が逸れますが、気圧が低くなったり湿度が高くなったりすると、膝の痛みが強くなることがあります。これは気象病とも呼ばれ、外来診療をしていても、そうした患者さまは一定数いらっしゃいます。
変形性膝関節症の痛みの治療法は様々
変形性膝関節症になると、あらゆる要因が様々な痛みを生じさせます。では、こうした痛みにはどのように対処するのでしょうか。いくつか方法があるため、医師はその中から適切な治療法を選択して提案します。
生活指導(生活習慣の改善)
変形性膝関節症の原因は様々で、患者さまの生活の中にその原因があることも少なくありません。問診をする中で、病気を進行させる要因が見つかった場合、生活面での改善方法を指導します。この病気の治療は、まず保存療法から行うのが基本です。
例えば肥満が原因として考えられる場合にまず行うべきは、生活習慣を改善し減量すること。というのも、膝関節にかかる負担は体重とイコールではないためです。直立時には体重の2.5倍、階段昇降時には3.2倍ほどとされています。つまり体重を1キロ減らすだけでも、膝関節にかかる負担を2.5キロほど減らすことができるということ。減量は、膝への負担を減らすための非常にシンプルな方法です。
運動療法
運動療法は、生活指導の一部でもあります。変形性膝関節症で膝に痛みを感じると、安静にしているべきだという気持ちから、全く動かずじっとしている人も多いでしょう。しかし、それは逆効果。膝周辺の筋肉や組織が硬くなる拘縮(こうしゅく)が起きて膝の可動域が狭くなったり、痛みが悪化したりしてしまうことがあるからです。実際、不活動状況になると痛覚が過敏になる、ということもわかってきています[1]。痛みを悪化させないためには、適度な運動も必要なのです。
[1]川村博文「疼痛に対する物理療法・ 運動療法」
変形性膝関節症の全般的な痛みには、大腿四頭筋の訓練
痛みに対する最も手っ取り早い対処法が運動です。正しい方法で運動を行えば、鎮痛薬と同じレベルの効果があったという報告も[2]。変形性膝関節症による直接的な痛みには、太ももの大腿四頭筋の運動で対処しましょう。おすすめは、セッティングというトレーニングです。
[2]Fransen M, Cochrane Database Syst Rev. 2008 Oct 8;(4):CD004376. doi: 10.1002/14651858.CD004376.pub2. 「Exercise for osteoarthritis of the knee.
拘縮による痛みには、曲げ伸ばし運動
拘縮が起こってしまった場合もそうですが、拘縮を防ぐためにも膝周辺の組織をほぐすのが効果的。膝の可動域が狭くならないよう、積極的に曲げ伸ばしを行いましょう。可動域を広く保てば、起立動作や歩行動作をスムーズに行うことができ、QOL(生活の質)の向上にも繋がります。
関節外の痛みには、マッサージ
変形性膝関節症によって痛みが生じると、その痛みをかばうように生活することが多くなるかもしれません。そうして関節外の一部に負担がかかり続けると、そこにも痛みが生じるようになってしまう可能性があります。このような場合には、マッサージで対処可能です。
当院でもよく患者さまに施したり指導したりするのが、大腿筋膜張筋(だいたいきんまくちょうきん)のマッサージです。大腿筋膜張筋は太もも側面で腸脛靭帯(ちょうけいじんたい)に移行し、膝関節をまたいでいる筋肉。そのため、変形性膝関節症の痛みをかばう動きによってこの筋肉が緊張してしまうと、ひざの外側に痛みが生じるだけでなく、膝関節の伸展を妨げてしまうのです。関節の動きに問題が生じると、変形性膝関節症の悪化にも繋がりかねません。
日常では座っている状態など、膝を曲げて過ごすことが多いため、当院のリハビリでは膝を伸ばすために必要な筋肉への刺激を中心に指導しています。
薬物療法
鎮痛薬の投与やヒアルロン酸の関節内注射によって、膝の痛みの緩和を図る方法です。痛みを抑えることが目的なのは間違いありませんが、大切なのはそのあと。痛みを軽減することで運動療法を導入しやすくする、補助的な治療として選択することが、薬物療法の隠れた狙いでもあります。
鎮痛薬の処方
NSAIDs(エヌセイズ)と呼ばれる、非ステロイド系消炎鎮痛薬が多く用いられます。代表的なのが、ロキソニンやバファリン。これらは消炎・鎮痛目的で処方されるため、基本的には痛みのある初期段階での投与が中心となりますが、実際には副作用の有無も考慮した上で、処方期間が長引く場合もあります。心配なときは、やや副作用の軽いCOX-2阻害剤(セレコックス)などへの変更を検討します。
ヒアルロン酸注射
関節内に直接、ヒアルロン酸を注射する治療法です。関節を満たしている関節液の主成分でもあるヒアルロン酸には、関節のスムーズな動きを助ける働きがあります。しかし、変形性膝関節症が引き起こす炎症によって、ヒアルロン酸は減少してしまうのです。この成分を関節内に注射することで、潤滑油のような役割を果たしつつ、消炎・鎮痛の効果も期待できます。
初診の場合はまず鎮痛薬の処方で経過を見ることが多いですが、初診時から膝の水たまりが強い場合には穿刺をし、ヒアルロン酸の注射を行うケースもあります。
物理療法
電気・超音波などの物理的な方法で、膝周辺の筋肉や軟部組織に刺激を与える治療法です。温熱効果などにより、一時的な症状の改善はあるかもしれません。しかし、この治療だけ行っていれば良いわけではなく、物理療法はその他の治療を行う上での補助療法のようなもの。例えば運動の前に行うことで、効果を増大することはできると考えています。
保存療法で効果が見られなければ、手術を検討
上述のような保存療法を継続しても症状の改善が見られない場合や、病気が進行してしまった場合は、手術を検討することになるでしょう。変形性膝関節症の進行度や症状、患者さまの希望などを勘案した上で、関節鏡視下手術、高位脛骨骨切り術、人工膝関節置換術といった手術の適応を考えます。
痛みをあきらめない方法を探し続けてほしい
変形性膝関節症の痛みに、保存療法で対処している人が多いと思います。今の治療が効いていないけれど、先生に勧められてるから続けている、手術はしたくないから痛みを我慢して付き合うことにしているなど、痛みを改善させることをあきらめている人も多いのが実情ではないでしょうか。そうであるならば、本当に他の方法がないのか、もう一度、主治医とじっくり相談してみることをおすすめします。
例えば、医師が把握しているよりも実際の痛みが強い場合、処方されている薬で痛みをコントロールできていない可能性も考えられます。また、手術を勧められているけれど受けたくないならば、自由診療ではありますが、再生医療という痛みに対する新しい選択肢も存在します。もう一度、主治医に症状を正確に伝えたり、本当に他に方法がないかなど、相談してみてはいかがでしょうか。それが難しいならば、セカンドオピニオンを活用するのも一つの手段。膝の痛みをあきらめることなく、可能性がある限りはアクションを起こしてほしい、と思わずにはいられないのです。
【参考文献】
松平浩「運動器疼痛のマネジメント」